ゴルフは他のプロスポーツと比べて選手寿命が長いと言われていますが、どんなレジェンドにも現役にピリオドを打つタイミングは訪れます。今回は帝王・ジャック・ニクラスのちょっとした意地に関するお話です。
名誉スターターに興味無しと否定したニクラス
ゴルフ界の帝王、ジャック・ニクラスが、「これが私にとっての最後のマスターズになる」と淋しそうに語ったのは2005年のマスターズでした。帝王の勇退表明を聞いて、アメリカのメディアはすぐさまこんな質問を投げかけました。
「アーノルド・パーマーは、いつかは名誉スターターを引き受けると言っていますが、ジャック、あなたはやりますか?」
すると、ニクラスは即座に、「私は、その件には一切興味がない」と、きっぱり否定しました。
名誉スターターとは、マスターズの始球式を務めるとても栄誉な役割です。
マスターズの始球式は1963年から始まり、1981年以降はバイロン・ネルソンとジーン・サラゼンの2人が務め、3年後からはサム・スニードも加わり、毎年、和やかなムードで始球式が披露されてきました。
現役として意地を張ったニクラスの気持ち
しかし、1999年にサラゼンが97歳でこの世を去り、2001年にはネルソンが体調悪化によって辞退しました。
そのため2002年はスニードが1人で1番ティに立ったのですが、ショットの際に手元が狂い、群衆の中へ打ち込んでしまいました。その翌月、スニードは89歳で亡くなり、それから3年間、始球式は行われていませんでした。
そんな中、次なる名誉スターター候補が常に取り沙汰されていたのですが、パーマーもニクラスも、なかなか「よし、やろう!」とは言いませんでした。名誉職を引き受けることは、現役選手としてのキャリアに自ら終止符を打つようで、きっと複雑な心境だったのだと思います。
しかし、2人は2010年からは仲良く名誉スターターを務め、残念ながらパーマーは2016年に天国へ逝ってしまいましたが、レジェンドたちにも、そんなふうに意地を張った時代があったことを、私はときどき懐かしく思い出します。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)